説明を、診察室の外に置く ── 事前教育型の医療のはじめ方

  • ブックマーク

「動画は見てきました」

診察室で、そう切り出されることが増えました。そうなると、病気の基本から一つずつ説明する必要がありません。すでに分かっているご家族と、その子のための次の一手を決めるところから始められます。

こうした変化は、特別な設備から始まったわけではありません。一つの気づきから始まりました。

問題は、説明の量ではなく、置き場所だった

丁寧に説明しようとするほど、診察は長くなり、待合室の方をお待たせしてしまう。急いで話せば、伝わらなかった分だけ質問が増える。長いあいだ、その間で揺れていました。

あるとき気づいたのは、問題は説明の量ではなく、置き場所なのではないか、ということでした。

診察室の中で話した説明は、その場で消えていきます。同じ話を、明日も来週も、別のご家族に一からします。けれども、診察室の外に置いた説明は消えません。何度でも見返せて、家族にも見せられます。

同じ内容でも、置く場所が変わるだけで、毎回の消耗が、積み上がる資産に変わります。

説明を、3つの場所に分ける

いま私が意識しているのは、説明を3つの場所に分けることです。

受診の前。病気の基本的な仕組み、家での過ごし方、検査の意味。どのご家族にも同じように伝えることは、資料や動画で前もって受け取っていただきます。

診察室の中。その子にしかない迷いや心配に向き合い、方向を決めます。ここは、医師が担う場所です。

受診のあと。診察で決めたことを、家で続けられるように、その日の要点を短くお届けします。読み返せる形にしておくと、次の受診までの道のりが途切れにくくなります。

受診の前と後で同じ説明を受け持ってもらうと、診察室は、その子のためだけの時間になります。

どの説明から外に出すか

すべてを外に出す必要はありません。私は、次の2つの問いで決めています。

一つめは、受診の前に見ていただくと、診察室の時間が濃くなるか。二つめは、受診の後に渡すと、家で続けられるようになるか。

どちらにも当てはまり、しかも同じ説明を何度もしているものから、外に出していきます。大切な話かどうかではなく、繰り返し同じ説明をしているかどうか。そこが分かれ目です。年に数回しか話さないことは、診察室で話せば十分です。

方向づけは、診察室に残す

ここで、いちばん大切にしていることがあります。外に置く説明は、診断の代わりではない、ということです。

外に置くのは、「何が起きているのか」「どんなサインに気をつけるのか」「診察で何を確かめるのか」まで。その子にとってどうするかを決めるのは、診察室です。家で気づき、診察で確かめ、多くは安心して経過を見る。必要なときは、大きな病院で詳しく調べる。その流れを、外に置く説明でも見せるようにしています。

外に出す説明は、診察室を不要にするためではありません。診察室の時間を濃くするための準備です。

うまくいかなかったことも

最初から順調だったわけではありません。

資料を作れば楽になると思っていましたが、資料を作る時間そのものが取れませんでした。AI に説明の下書きを手伝わせても、最初はそれらしい文章が出てくるだけで、そこに私の判断が入っていませんでした。「何を書かせるか」より「何を書かせないか」を決めてから、ようやく使えるようになりました。

外に置く説明は、一度に完成させるものではありません。毎日の診察で何度も繰り返している説明を一つ見つけ、それを外に置く。その積み重ねです。

人を増やす前に、迷わない仕組みを

説明を外に置く仕組みができると、少人数のチームでも、一人ひとりの子どもに向き合う時間が戻ってきます。人を増やして同じ説明を分担する前に、説明そのものの置き場所を変える。仕組みがあるから、人は、目の前の子どもと家族に向き合うという本質の仕事に戻れます。

便利な道具は使う。けれども、診察室で方向を決め、経過を一緒に見ていくという在り方は手放さない。その両方を、これからも大切にしていきたいと思います。

関連して、記事か、動画か ── 診察室の外に置く説明の選び方も書いています。

この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。

文:小森広嗣(小児外科専門医)

  • ブックマーク

この記事を書いた人

小森広嗣

小森広嗣

小児外科専門医・医学博士。子どものお腹と栄養を、構造と機能の両方から診ている臨床医です。説明を診察室の外にも出し、少人数のチームでも毎日回る仕組みづくりに取り組んでいます。