子どもをとりあえず静かにさせたいとき、スマートフォンやおやつに頼ることがあります。公共の場では、それが必要なときもあります。責められることではありません。
ただ、その場の楽さばかりを選び続けると、子どもが壁を乗り越える機会を、少しずつ手放してしまうことがあります。『7つの習慣』は、結果は原則に従って表れると教えています。忍耐、勤勉、誠実。すぐには結果が出なくても、長い目で見て人を育てるのは、こうした原則の側です。
この話を、私は医療の現場に置き換えて考えることがあります。
医療の現場にも、便利な道具が増えた
いまの医療の現場には、便利な道具がたくさんあります。記録の下書きを手伝う AI、説明の資料をつくる道具、予定や連絡をまとめる仕組み。私も毎日使っていますし、使うことをためらう必要はないと考えています。
便利な道具は、手間を減らすためだけのものではありません。減った手間の分、人にしかできない仕事に時間を使えるようにするためのものです。
任せることと、手放さないこと
私は、道具に任せることと、人が手放さないことを、分けて考えるようにしています。
道具に任せるのは、繰り返しの作業、どのご家族にも共通する説明、記録の整理です。ここは、人が毎回一から手を動かすより、道具のほうが正確で、ぶれません。
手放さないのは、目の前の子どもとご家族を見て判断すること、その家族にとって何が良いのかを考え抜くこと、そして、自分の言葉で声をかけることです。ここは、どれだけ道具が賢くなっても、人が担う仕事だと考えています。
安易さは、確かめない瞬間に入り込む
便利な道具そのものが悪いわけではありません。安易さが入り込むのは、出てきたものを確かめずにそのまま渡すとき、考える前に道具に答えを聞くときです。
子育てで楽さを選び続けると力が育ちにくいように、医療でも、確かめることを手放し続けると、判断する力が少しずつ細っていきます。誠実であること、確かめること、最後に責任を持つこと。道具を使うときこそ、この原則に立ち返りたいと思っています。
道具の中に、在り方を組み込む
ここで大切にしているのは、在り方を道具の外に置いておかないことです。
どこまでを道具に任せ、どこで人が判断するのか。どの言葉で親御さんに伝えるのか。その線引き自体が、医療の考え方そのものです。Clinical AI Core という考え方の芯にあるのも、便利な機能を並べることではなく、こうした考え方を、仕組みの中に最初から組み込んでおくことです。システムを入れたからうまくいくのではありません。根底にある在り方が、システムの中で毎日働いているから、現場が変わるのだと考えています。
ただし、道具を入れれば翌日から現場が変わる、ということはありません。仕事の流れが大きく変わる分、最初はぎこちなく、元のやり方に戻りたくなる日もあります。使いながら線を引き直し、少しずつ現場の形にしていく。その根気が要ります。
最後に人が確かめる場所を、仕組みにしておく
道具を使うたびに、一人ひとりの心がけだけで線を守ろうとすると、忙しい日に崩れます。だから、使い方を手順として決めておきます。どこまでを道具に任せるのか。どこで必ず人が目を通すのか。誰が最後に確かめるのか。
人を増やして見張る前に、確かめる場所を仕組みにしておく。そうすれば、便利さを使いながら、人は判断と声かけという本質の仕事に戻れます。便利さは使う。在り方は手放さない。その両方がそろって、道具は現場の力になるのだと思います。
関連して、親御さんの仕事に、敬意を払う診察室も書いています。
この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。
文:小森広嗣(小児外科専門医)
