人を増やさずに回る医院は、仕組みから始まる ── クリニックの人手不足に、院長が最初に見る場所

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「人が足りない。でも、採用しても、育てる時間がない」

開業している先生と話すと、たいていこの話になります。求人を出しても応募が来ない。来てくれても、教える時間がとれない。院長は外来に追われ、仕組みを見直すのは「落ち着いたら」になる。そして、落ち着く日は来ません。

私も、まったく同じ場所にいました。

仕事の量を、
人の数だけで受け止めない

医療機関の困りごとは、長いあいだ「人を増やして解く」ものでした。忙しくなったら一人増やす。新しい業務が来たら、誰かに覚えてもらう。

ところが今は、その前提が揺らいでいます。人が集まりにくい。集まっても、一人前になるまでの教育に、院長と先輩の時間がかかる。その時間を生むために、また人が要る。

これは、誰かが悪いのではありません。院長の努力不足でも、スタッフの力不足でもない。仕事の量を、人の数で受け止める形そのものが、今の現場に合わなくなってきているのだと思います。

専門の診療を、この人数で

私の現場は、いま4人で、1日60〜70人ほどを目安に外来を回しています。どうしても80人ほどまでお受けする日も、少なくありません。

この人数を聞いて、「それだけ?」と思う先生もいれば、「4人でそんなに?」と思う先生もいるはずです。どちらも自然な受け止め方だと思います。

ただ、一つだけ添えさせてください。この外来のほとんどは、専門の診療です。

風邪を中心に診るのであれば、もっと多くの方を診ている医院はたくさんあります。けれども、専門の診療は、診察して、検査をして終わり、ではありません。エコーを当てながら切開などの処置をする。小手術をする。光線治療や、いぼの治療をする。動いてしまうお子さんを安全に支えて固定し、ヘッドライトで手元を照らしながら、器械を準備する。けがの手当てには、私が局所麻酔をかけて縫う処置も、看護師による傷の手当ても入ります。その合間に、抗原検査などの検査も入ります。一日を通して、かなり慌ただしい外来です。一般的な小児科のクリニックとは、ずいぶん違う一日だと思います。

専門の診療を、この人数で、一人ひとりのご家族にしっかり向き合いながら続ける。それは、仕組みなしでは、ほぼ現実的ではありません。だから私は、記録と準備、そして必要なものがすぐ手に取れる流れを、徹底的に工夫してきました。

私が見ているのは、人数の多さではなく、無理のなさです。少なすぎれば、医院を続けていく力が保てません。多すぎれば、一人ひとりのご家族と話す時間が削られ、スタッフにも私にも疲れがたまり、急ぎの受診をお受けする余白もなくなります。その間で、毎日続けられて、説明を省かずに済む人数を、目安に置いています。

この目安は、感覚で決めたものではありません。どれだけの人数なら医院が成り立つのか、どれだけ休んでも回るのかを計算し、その結果として置いた数です。そして、その計算を毎月の数字で確かめられる仕組みも、一緒に作りました。気分ではなく数字で見ているから、無理なく続けられると言えるのです。

目安を置いた理由は、もう一つあります。私にとって診療は、学び続ける研究の場であり、社会に返していく場です。けれども、私の生き方は診療だけで満ちるものではありません。だから診療を、無理なく続けられる大きさの器にしました。それは、診療を軽く見ることではなく、診療の外にあるものも含めて、全体を長く続けるための設計です。

最初にしたこと

人を減らそうとして減らしたわけではありません。人を増やすことが難しい中で、どうすれば診療の質を落とさずに続けられるか。それを考え続けた結果です。

最初にしたのは、AI を入れることではありませんでした。どこがボトルネック(毎日の診療の中で、時間が消えている所・仕事が止まっている所)になっているかを、言葉にすることでした。

  • 電話が鳴るたびに、受付の手が止まる
  • 処置のたびに、二人の手がふさがる
  • 誰かが休んだ日は、何をどう回すかを、その朝に考えている
  • カルテを書く時間が、外来のあとに積み上がっていく

書き出してみると、ボトルネックはそれほど多くありませんでした。そして、その一つひとつに、合う解き方が違いました。

電話は、自動で応答する仕組みに任せました。処置は、子どもを安全に支える道具と手元を照らすライトで、一人でできる段取りに変えました。休んだ日の手順は、一枚の紙にしました。カルテは、AI と一緒に書くようにしました。

AI で解いたのは、その一部です。 残りは、道具と、流れの見直しと、紙一枚でした。

順番は、
言葉 → ボトルネック → 解き方 → つなぐ

いま振り返ると、私がたどった順番は次のとおりです。

順することよくある落とし穴
1何をしたいかを言葉にする「効率化したい」で止まる。誰の、どの時間を、何に戻したいのかまで書く
2ボトルネックを見つける目立つ困りごとから手をつける。実際のボトルネックは、毎日くり返す小さな場所にあることが多い
3AI で解くか、ほかの仕組みで解くかを選ぶ道具を先に決める。AI が合わない場所に、AI を入れてしまう
4院内の流れにつなぐ一人の便利で終わる。チームが同じ手順で動けるようにして、初めて仕組みになる

道具を選ぶのは、三番目です。最初に道具のカタログを開くと、たいてい遠回りになります。

仕組みがあると、
教えることが変わる

仕組みにして、いちばん変わったのは、教育でした。

手順が紙や型になっていると、新しく来た人に「やり方」を一から教える時間が減ります。手順は、仕組みが教えてくれる。その分、私たちが伝えるのは、なぜこの仕事をしているのか、患者さんとご家族にどう向き合うのか、という在り方になりました。

人を育てることを、あきらめたわけではありません。育ちたいと願う人が来たときに、育つ時間を守れるように、先に仕組みを置いたのです。そして、どの職場にも、いつか必ず卒業があります。院長である私も同じです。仕組みが続いていれば、卒業は悲しい終わりではなく、その人が次の場所で花を咲かせるための節目になります。

便利になるほど、人にしかできない仕事が大切になります。仕組みは、その仕事に向き合う時間を支える土台です。

ずれながら直して、
チームのものになる

仕組みは、入れた日から働くものではありません。どこまでを目指すのかを最初に決め、現場で使い、型を直す。その往復の中で、少しずつ形になっていきます。

入れた直後は、かえって手間が増えます。前のやり方に戻りたくなる日もあります。私の現場でも、紙を何度も書き直し、流れを何度も組み替えました。ずれながら直していく。その根気の時間も含めて、仕組みはチームのものになっていきます。

そして、道具だけでは回りません。何を大切にする医院なのかという考えが先にあって、その考えが手順の一つひとつに入っている。だから、人が入れ替わっても、同じ医療が続いていきます。

明日の外来で、一つだけ

まず、明日の外来で、「いちばん手が止まっている場所」を一つだけ書き出してみてください。道具を探すのは、そのあとで十分です。

次は、その一つをどう見つけるか。私が自分の現場で使っている「ボトルネックの見つけ方」を書きます。

この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。最初は、医院の1日の流れを一緒に見るところから始めます。

関連して、計画どおりに進まない導入を、どう立て直すかも書いています。

文:小森広嗣(小児外科専門医)

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この記事を書いた人

小森広嗣

小森広嗣

小児外科専門医・医学博士。子どものお腹と栄養を、構造と機能の両方から診ている臨床医です。説明を診察室の外にも出し、少人数のチームでも毎日回る仕組みづくりに取り組んでいます。