診察の合間に浮かんだ、伝わりやすい説明の言い回し。帰り道に思いついた、手順の直し方。あとで書こうと思っていたのに、夜にはもう思い出せない。現場の小さなひらめきは、驚くほど早く消えていきます。
迷う一瞬で、ひらめきは消える
ひらめきが消える理由の多くは、忘れっぽさではありません。どこに書くかを迷う一瞬です。手帳か、スマートフォンか、パソコンか。迷っているうちに次の仕事が来て、書くこと自体をあきらめてしまいます。
私は長い時間をかけて、この迷いをなくす形を探してきました。たどり着いたのは、書き始める場所を一つに決めておくことでした。
入口は一つ、行き先はあとで決める
思いついた瞬間には、それがやることなのか、育てたい考えなのか、チームと共有する手順なのかは、まだ分かりません。だから、その場では分けずに、決めた一つの入口にとにかく入れます。きれいに書こうとしなくて構いません。短い言葉で十分です。言い間違いや誤字があっても、あとで見直したときに直せれば、それでよいのです。
分けるのは、あとで落ち着いたときです。必ずやることはやることの置き場へ、まだ形になっていない考えは育てる場所へ、チームに渡すものは共有の手順書へ。入口を一つにして、行き先を役割で分ける。これで、書く瞬間の迷いがなくなります。
どの場面でも、同じ入口に届くようにする
移動中なら腕の時計に話しかけ、手元にスマートフォンがあれば短く打ち、机の前ならパソコンから入れる。機械は違っても、届く先は同じ一つの入口です。
この動線は、ふだんから練習しておきます。いざというときに手が迷わないように、場面ごとにどう入れるかを決めておくのです。
書かないものも、決めておく
もう一つ、最初に決めておくことがあります。個人のメモには、患者さんの名前や診療の情報を書きません。それは、決められた診療の記録の場所にだけ置きます。気づきは、誰のことか分からない形で残します。何を書かないかを先に決めておくと、安心して書けます。
ひらめきを、現場の力に育てる仕組み
入口に集まったひらめきは、週に一度、決めた時間に見直します。置き場の名前も、どこでもそろえておきます。たとえば一つの計画には、やることの置き場でも、考えを育てる場所でも、手順書でも同じ名前をつけます。道具が増えても、名前がそろっていれば、どこに書いたかで迷いません。
Clinical AI Core で大切にしているのも、現場の小さな気づきを消さずに、仕組みへ育てていく考え方です。ひらめきの多くは、目の前の子どもとご家族に向き合っている人からしか生まれません。道具は、それを受け止める器にすぎません。
この形が自分の現場になじむまでには、時間がかかります。入れ忘れる日もあれば、見直しを飛ばす週もあります。そのたびに入口に戻る。その根気が、ひらめきを医療を良くする種に変えていきます。
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この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。
文:小森広嗣(小児外科専門医)
