迷ったら「安全」――チームの価値観に優先順位をつける

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理念や価値観を掲げているのに、現場の判断がそろわない。多くの医療機関で聞く悩みです。

価値観は、壁に貼ってあるだけでは、日々の判断の役に立ちません。役に立つのは、迷った瞬間に「どちらを先に取るか」が分かっているときです。そのために、私たちのチームでは価値観に優先順位をつけています。

6つの価値観と、1つの優先順位

私たちのチームで共有している価値観は、次の6つです。チームで話し合いながら、言葉にしてきました。

  • 安全性:すべての土台。患者さんと仲間の安全を、何より大切にする
  • スピード感:てきぱき、はきはきと。気持ちのよいリズムで仕事を進める
  • チームワーク:「あなた」と「私」ではなく、「私たち」で考え、動く
  • 礼儀正しさ:親しい間柄だからこそ、言葉と態度で敬意を示し合う
  • 演出:安心できる空間と、心が温まる体験を、みんなでつくる
  • 感謝:「ありがとう」を、言葉と行動で伝え合う

どれも大切です。けれども「全部大事」と言われると、人はいざというときに迷います。だから、迷ったときに一番に考えるものを決めました。それが「安全性」です。

たとえば2つめのスピード感。患者さんをお待たせしないことは、大切な価値観です。それでも、速さを求めるあまり、確認が一つでも抜けるおそれがあるなら、ブレーキを踏みます。一度失った信頼を取り戻すには、長い時間がかかるからです。ここにも近道はありません。

「スピード」と「安全」が揺れる場面

現場で、この優先順位がどう働くか。よくある場面で考えてみます。

吸入の終わりを知らせるアラームが鳴ります。目の前には、処置を終えた患者さんがいます。すぐに対応すれば、早くお帰りいただける。目の前の仕事を片づけたい気持ちになるのは、自然なことです。

ちょうどその時、別の部屋では予防接種が始まろうとしています。より注意深い介助が要る処置で、チームの安全のルールでは、もう一人サポートに入る場面です。

  • 目の前の患者さんに、すぐ対応するか(スピード感・礼儀正しさ)
  • リスクの高い予防接種の介助に、先に向かうか(安全性・チームワーク)

この場面で、チームの優先順位が指すのは「安全性」です。目の前の対応が少し遅れても、チーム全体の安全を先に守ります。

一つを選んでも、ほかを捨てるわけではない

大事なのは、ここからです。安全を選んだからといって、スピード感や礼儀正しさを諦めるわけではありません。

介助に向かう途中で、吸入を終えた患者さんに「すぐに戻りますので、少しだけお待ちくださいね」と、笑顔で一言伝える。これが礼儀正しさであり、不安を安心に変える演出です。介助が終わったら、今度は誰よりも速く戻り、お待たせしたことへの感謝を込めて対応する。

一番大切な軸をぶらさずに、ほかの価値観も一緒に生かす。優先順位は、何かを切り捨てるための順番ではありません。全部を高い水準で叶えるための、判断の順番なのです。

価値観を、判断の場面で使える形にする

価値観を判断に生かすには、言葉を掲げるだけでなく、迷いやすい場面と結びつけておくことが欠かせません。

  • 迷いやすい場面を、チームで書き出す
  • その場面で、どの価値観を先に取るかを決めておく
  • 決めたことを短い言葉にして、いつでも見返せる形に残す
  • 新しく入った人には、その場面ごと渡す

こうしておくと、価値観は院長の頭の中だけのものではなくなります。院長がその場にいなくても、チームが同じ方向に判断できるようになります。仕組みにするのは、人を縛るためではなく、迷う時間を減らし、目の前の方に向き合う時間を増やすためです。

価値観は、語り続けて育つ

価値観は、一度唱えれば完成するものではありません。上に立つ人も迷い、ときに間違えながら、日々の出来事を通して「私たちが一番大切にしているのは何か」を語り続ける。その積み重ねが、チームの判断をそろえていきます。

関連して、新人に最初に伝えたい「謝る力」と、謝れるチームも書いています。

この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。

文:小森広嗣(小児外科専門医)

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この記事を書いた人

小森広嗣

小森広嗣

小児外科専門医・医学博士。子どものお腹と栄養を、構造と機能の両方から診ている臨床医です。説明を診察室の外にも出し、少人数のチームでも毎日回る仕組みづくりに取り組んでいます。