「この人に任せたい」は、どこから生まれるのか

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「誰に『大丈夫』と言ってもらうかが、大事なのでしょうか」

診察室で、何度もこの問いに立ち返ります。同じ「心配ありません」という言葉でも、受け取る側の安心はまるで違います。患者さんとご家族が求めているのは、正しい情報だけではありません。この人になら任せられる、この人の判断なら納得できる、という感覚です。

この感覚は、医師ひとりでつくるものではありません。看護師の声かけ、受付の対応、検査の段取り。そのすべてが重なって、はじめて「このチームに任せたい」が生まれます。

情報は増えたのに、不安は減っていない

いまは、症状を調べれば数秒で大量の情報が手に入ります。それでも、受診される方の不安は減っていません。調べた情報どうしが食い違い、かえって迷いが深くなって来られる方もいます。

誰かが悪いわけではありません。情報が手に入りやすくなった時代の、自然な姿です。

情報だけでは、心の隙間は埋まりません。最後に人を安心させるのは、信頼できる人の言葉と、その言葉を受け取る準備が整っていることです。

同じ説明でも、心の準備が整っていない時に聞くと、ほとんど残りません。不安でいっぱいの頭には、言葉が入っていく場所がないからです。だから私は、何を伝えるかと同じくらい、どの順番で、どの時に伝えるかを大切にしています。

形は真似できても、信頼は真似できない

うまくいっている医療機関のやり方を、そのまま取り入れたくなることがあります。問診票の形、説明の順番、声かけの言葉。形は、ある程度まで真似できます。

けれども、形だけを移しても、同じ安心は生まれません。その言葉の後ろにある、日々の積み重ねがないからです。

看護師なら観察とケアの確かさ、事務スタッフなら正確で丁寧な対応、医師なら診断と説明の誠実さ。職種ごとに磨くものは違っても、時間をかけて育てるしかない、という点は同じです。農場の法則に、近道はありません。

チームで見ると、このことがよく見えてきます。受付で「先生に聞きたいことがあれば、メモしておいてくださいね」と一言添えるだけで、診察室での会話は変わります。看護師が待ち時間に様子を聞いておくだけで、医師は最初の一分から本題に入れます。一つひとつは小さなことですが、その積み重ねが「このチームに任せたい」をつくっていきます。

研修医の頃、患者さんに教わったこと

研修医になったばかりの頃、私は手術の技術も未熟で、指導医から叱られてばかりいました。自信をなくしかけていた私にできたのは、患者さんのベッドサイドに足を運び、話を聞き、検査や手術の準備を一つずつ丁寧にこなすことだけでした。

ある日、患者さんから「先生に担当になってほしい。色々と相談に乗ってほしい」と言われました。

力不足の私にとって、信じられない言葉でした。そのとき知ったのは、技術がまだ足りなくても、向き合う姿勢は伝わるということです。信頼は、技術の後ろから、少し遅れてついてくるのです。

この経験は、いまも私の診療の土台にあります。

信頼をつくる時間を、仕組みで取り戻す

では、忙しい現場で、どうやって向き合う時間をつくるのか。私が取り組んでいるのは、診察室でしかできないことと、診察室の外でもできることを分けることです。

病気の基本的な仕組み、家での過ごし方、検査の意味。こうした説明は、受診の前後に、資料や動画で落ち着いて受け取っていただけます。そうすると診察室では、その方にしかない迷いや心配に、時間を使えるようになります。

前もって仕組みを知って来られたご家族は、質問が具体的になります。「何が起きているのか」から始めるのではなく、「うちの子の場合はどうか」から話を始められるのです。限られた診察の時間が、その子のためだけの時間に変わります。

説明を減らすためではありません。説明を、増やすためです。AI や仕組みは、その時間をつくる道具です。信頼を生むのは、最後まで人です。

「このチームに任せたい」は、毎日の中で育つ

「この人に任せたい」と思っていただけることは、ゴールではありません。その信頼に応え続けるために学び続けることも、医療者の仕事の一部です。

完璧な日はありません。それでも、一人ひとりが自分の持ち場を丁寧に磨き、それを仕組みが支えれば、チーム全体の安心は確実に厚くなっていきます。

関連して、説明を、診察室の外に置く ── 事前教育型の医療のはじめ方も書いています。

この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。

文:小森広嗣(小児外科専門医)

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この記事を書いた人

小森広嗣

小森広嗣

小児外科専門医・医学博士。子どものお腹と栄養を、構造と機能の両方から診ている臨床医です。説明を診察室の外にも出し、少人数のチームでも毎日回る仕組みづくりに取り組んでいます。