パスワードは、記憶ではなく仕組みで守る

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院長が休んだ日に、ある画面に誰も入れない。担当の人が辞めたあと、どこに何が登録されていたのか分からない。医療機関で、こうした小さな行き詰まりはめずらしくありません。

覚えておく、書いておく、の限界

私も以前は、二つか三つのパスワードを使い回していました。登録する場所が増えるにつれて、経営を始めてからは、取引や届け出の画面が増え、登録する場所は数十を超えました。それでは危ないと感じ、種類を増やしてノートに書き留めるようにしました。

けれども、今度はノートが手元にないと何も開けません。パソコン、タブレット、スマートフォンと使う機械が増えるたびに、入力の手間も増えていきました。覚えておくことも、書いておくことも、どこかで限界が来ます。

一人の記憶に預けると、その人が欠けた日に止まる

医療機関のパスワードには、取引先の画面、予約や会計の仕組み、各種の届け出の窓口など、止まると困るものがたくさんあります。その鍵が一人の頭の中にだけあると、その人が休んだ日や、職場を離れた日に、仕事が止まります。

人数の少ないチームほど、この影響は大きくなります。誰かの記憶力が足りないのではありません。人の記憶に預けるという形そのものに、無理があるのです。

鍵は、一つの金庫に集める

私は、パスワード管理の道具を長く使っています。場所ごとに違う、推測されにくいパスワードを道具に作ってもらい、それを一つの金庫に集めておく考え方です。覚えるのは、金庫を開ける鍵だけになります。

大切なのは、道具の種類よりも、決めごとです。どこに集めるのか。金庫の鍵を誰が持つのか。その鍵を失ったときにどう戻すのか。戻し方は、あらかじめ決めた人だけが分かる形にしておきます。これらを先に決めておくと、道具はその決めごとを支えてくれます。

誰が、どの鍵を持つかを決めておく

チームで使う鍵は、役割ごとに分けて共有します。受付の人が使う鍵、院長だけが持つ鍵、経理の人と分ける鍵。人が入れ替わるときには、その人が持っていた鍵を見直します。鍵の一覧があれば、引き継ぎも短く済みます。具体的な設定は、それぞれの医療機関の環境に合わせて、専門の方と相談しながら決めてください。

仕組みの中に、信頼の考え方がある

鍵を仕組みで守るのは、人を疑うためではありません。一人に重い荷物を背負わせないためです。誰かが欠けても回る形にしておくことは、チームの一人ひとりを守ることでもあります。鍵を探す時間や、確かめ合う電話が減れば、その分の余白が人に向かいます。

ただ、移し替えには根気が要ります。何十もの鍵を一度に整えることはできません。気づいたものから一つずつ移し、ずれたら直していく。その間に、記憶に頼らずに済む安心が、少しずつ現場に広がっていきます。人の頭は、覚えておくことではなく、目の前の子どもとご家族に向き合うために使いたいのです。

関連して、頭の中を、外に出しておく ── たくさんの仕事を抱えても、目の前に集中するためにも書いています。

この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。

文:小森広嗣(小児外科専門医)

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この記事を書いた人

小森広嗣

小森広嗣

小児外科専門医・医学博士。子どものお腹と栄養を、構造と機能の両方から診ている臨床医です。説明を診察室の外にも出し、少人数のチームでも毎日回る仕組みづくりに取り組んでいます。