「時間があれば、スタッフともっと話せるのに」
経営をしていると、何度もこう思います。チームは、人がつくるものです。ルールが人を動かすのではなく、人がチームを動かしています。よくなるのも、悪くなるのも、人の力です。
それなのに、現場が忙しいと、つい人より目の前の段取りを優先してしまいます。人を大切にしたい気持ちはあっても、まとまった時間が取れない。その間にも、チームは待ってくれません。
大がかりな仕組みの前に、できることがあった
私にも、現場をよくしたい思いは強いのに、忙しくて歯車がかみ合わない時期がありました。大がかりなマネジメントの仕組みを入れれば解決するのでは、と考えたこともあります。
そのころ学んだのが、まとまった時間がなくてもできる、日々の小さな取り組みでした。実践を始めてから、現場は少しずつよくなっていきました。それが「ほめる」ことです。
ほめるとは、おだてることではない
人が頑張れるのは、自分の行動や頑張りを、きちんと認めてもらえるからです。それがやりがいや居心地のよさにつながり、もっと力を出せるようになります。
感謝はしているのだから、言わなくても分かってくれるはず。それでは、相手には伝わりません。言葉にして、声にして、何度でも伝え続けることが大切です。
ここで言う「ほめる」は、おだてることでも、耳ざわりのよいことを言うことでもありません。相手の本当によいところを見つけ、それを伝えることです。一見ネガティブに見える中にも価値がある、という目で相手を見る力でもあります。そう見ていると、当たり前に見えていたことが、ありがたいことに変わっていきます。
「ほめる」の4つの基本
一般社団法人 日本ほめる達人協会の理事長、西村貴好さんに学んだ4つの基本です。
1. 小さな事実を見つける
「小さな事実」と「ありがとう」を、セットで伝えます。事実は小さいほどよい、と教わりました。
- 「いつも気持ちのよいあいさつをしてくれて、ありがとう」
- 「すみずみまでピカピカにしてくれて、ありがとう」
2. 誰の役に立ったかを伝える
人は、ただほめられたいのではありません。自分が誰の、どんな役に立っているのかを知りたいのです。
- 「すみずみまでピカピカにしてくれてありがとう。来てくださる方も、気持ちよく過ごせるね」
3. 第三者の声を使う
本人のいないところで聞いたよい話は、そのまま届けます。
- 「私だけじゃなくて、◯◯さんもそう言っていたよ」
4. 主観でほめきる
「私なんてまだまだです」と返ってくることがあります。そのときは「少なくとも私はそう思っています」と、主観でほめきります。ただし、心にもないことは言いません。
ほめることは、自分の心も整える
ほめる習慣は、相手のためだけのものではありません。よいところを探す目が育つと、見えなかったものが見えるようになり、逆境のときほど強くなれます。相手の力を引き出せれば、自分にはない力を借りることもできます。一人の力が、チームの力に変わっていくのです。
西村さんの言葉に、「まずほめる、ほめてから、あとで何をほめるかを考えるくらいの勢い」というものがあります。相手を変えることはできません。けれども、自分から働きかければ、周りによい変化が生まれます。
仕組みが引き受けるもの、人にしか伝えられないもの
ほめることに、大がかりな仕組みも、まとまった時間も要りません。始めれば一段目、続ければ二段目、三段目へと上がっていけます。生まれつきの才能ではなく、練習で身につく力です。
説明や段取りのように、繰り返しになることは、仕組みに任せられます。けれども、目の前の人のよいところを見つけて伝えることは、人にしかできません。仕組みで生まれた時間は、こうした人にしかできない仕事に使いたいと考えています。
まずは明日、一人に「小さな事実」と「ありがとう」をセットで伝えてみてください。
この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。
文:小森広嗣(小児外科専門医)
