子育ては、何ものにも代えがたい仕事だと思っています。私も一人の父親として、思いどおりにいかない日々の重さを知っています。
診察室に来られる親御さんは、その仕事の途中にいます。仕事を調整して時間をつくり、ぐずる子どもをなだめながら、ここまで来られています。診察室で会うのは、その積み重ねの、ほんの一場面です。
正しい言葉でも、届かないことがある
医療者として、伝えなければならないことがあります。生活の中で変えてほしいこと、続けてほしいこと。ときには、もう少し早く相談してほしかった、と感じる場面もあります。
けれども、「どうしてもっと早く」「なぜ続けられなかったのか」という言葉は、たとえ医学的に正しくても、親御さんを萎縮させます。不安を強める言い方も同じです。萎縮した気持ちのままでは、家に帰ってから続ける力が出てきません。
治療の多くは、診察室ではなく家で進みます。親御さんが前を向けるかどうかは、治療の土台そのものだと考えています。
最初の一言は、ねぎらいから
私は、診察の始まりに、これまでの頑張りを受け止める一言を置くようにしています。「いつも、お疲れさまです」。それだけで、親御さんの肩の力が少し抜けるのが分かります。
そのうえで、できていないことより先に、できていることから話します。続けられていること、気づいて相談に来られたこと。そこを認めてから、次の一歩を一緒に決めます。順番を変えるだけで、同じ内容の話が、責める言葉ではなく、支える言葉として届きます。
姿勢は、チームでそろえる
親御さんが出会うのは、医師だけではありません。受付で最初に声をかける人、処置のときにそばにいる人、帰りに声をかける人。どこか一か所でも責める言葉があれば、それが印象に残ってしまいます。
だから、親御さんに向き合う姿勢は、チーム全体でそろえたいと考えています。
ねぎらう時間と言葉を、仕組みで守る
ねぎらいの一言は、余裕がなくなると真っ先に消えていきます。一人ひとりの優しさだけに頼ると、忙しい日に崩れます。
そこで、どのご家族にも共通する説明は、資料や流れとして先に整え、診察室の外に置いておきます。そして、最初にかける言葉、避けたい言い方、話す順番を、チームの型として共有しています。人を増やして説明を肩代わりしてもらう前に、迷わない仕組みを先につくっておく。そうすると、診察室には、目の前のご家族の顔を見て、ねぎらいの言葉をかける時間が残ります。
この型は、最初から整っていたわけではありません。言葉を選び直し、順番を入れ替え、チームで何度もすり合わせてきました。流れが変わるたびに戸惑いもあり、根気よく続けてきたことで、ようやく形になってきたものです。
そして、型を真似るだけでは、温かさは届きません。型の中には、親御さんの仕事に敬意を払うという考え方が入っています。考え方が仕組みの中に組み込まれているから、忙しい日でも、誰が対応しても、同じ姿勢で親御さんに向き合えるのです。
仕組みは、温かさを削るためのものではありません。親御さんの仕事に敬意を払う時間を、守るためのものです。
関連して、診察室で、聞く力も書いています。
この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。
文:小森広嗣(小児外科専門医)
