新しい仕組みを医療機関に入れるとき、最初に描いた計画どおりに進むことは、まずありません。新しい手順、説明の資料、記録を手伝う AI。どれも、入れた直後から少しずつ、予定とずれていきます。
私自身、何度もそれを経験してきました。そして、ずれること自体は失敗ではない、と考えるようになりました。
飛行機は、ずれながら目的地へ向かう
『7つの習慣』の著者、コヴィー博士は、飛行機の飛び方をたとえに使っています。飛行機は、気流や天候の影響を受けて、ほとんどの時間、予定した進路から外れながら飛んでいる。それでも目的地に着けるのは、行き先が決まっていて、ずれるたびに戻しているからだ、というたとえです。
仕組みの導入も、同じだと感じています。大切なのは、ずれないことではなく、ずれたときに戻せることです。
ずれるのは、現場が忙しいから
導入がずれるとき、よく起きるのは次のようなことです。使われないまま置かれている。忙しい日に、慣れたやり方に戻ってしまう。思わぬところに、新しい手間が生まれる。
これは、誰かの怠けではありません。現場は毎日、目の前の子どもとご家族に向き合っています。余裕のない日ほど、慣れた道を選ぶのは自然なことです。そこを責めると、仕組みそのものが嫌われてしまいます。
戻る先は、道具ではなく目的に置く
ずれたときに戻すには、戻る先が要ります。私は、導入を始める前に、何のためにそれを入れるのかを一言で決めておくようにしています。
たとえば、診察室でご家族の話を聞く時間を増やすため。道具の名前や使い方ではなく、目的で決めておくと、ずれたときに「その目的に近づいているか」で判断できます。使い方が当初の計画と違っていても、目的に近づいているなら、それは順調です。反対に、計画どおりに使えていても、目的から離れているなら、立ち止まって考え直します。
大きく変えず、小さく直す
立て直すときは、一度に大きく変えないようにしています。どこで慣れたやり方に戻ってしまったのか、どこで手間が増えたのかを、現場の声から一つずつ拾い、小さく直します。
小さな修正を重ねるうちに、仕組みは少しずつ、その現場の形になっていきます。最初の計画よりも、何度も直したあとの形のほうが、長く使われることが多いと感じています。
変化が大きいほど、根気が要る
仕組みを入れると、現場には思っていた以上に大きな変化が起きます。説明の置き場所が変わり、記録の流れが変わり、ご家族との会話の始まり方が変わります。変化が大きいほど、すぐにはなじみません。
Clinical AI Core という考え方で大切にしているのも、入れた日からうまくいく道具ではありません。ずれながら直し、その現場の形に育てていく過程そのものです。数週間で手応えが出ることもあれば、何か月もかかることもあります。その間、目的に戻り続ける根気が、いちばんの支えになります。
道具の中に、考え方が入っている
もう一つ、導入を重ねてきて分かったことがあります。仕組みを入れたから、うまくいくのではありません。
どの説明を診察室の外に置くのか。どの順番で届けるのか。どこで必ず人が判断するのか。こうした一つひとつの設計には、子どもとご家族にどう向き合うかという医療の考え方が、先に入っています。考え方がないまま道具だけを入れると、ずれたときに戻る先が見つかりません。考え方が組み込まれているから、ずれても、その考え方に照らして直せるのです。
立て直しも、仕組みにしておく
ずれに気づく力を、一人ひとりの注意力に頼ると続きません。だから、立て直しの手順も最初に決めておきます。短い振り返りの日、目的に照らして確かめる問い、気づいたことを書き残す場所。
人を増やして見張る前に、戻るための仕組みを先につくっておく。そうすれば、仕組みが少しずれても、人は慌てずに、目の前の子どもとご家族への本質の仕事に戻れます。
関連して、診察室で、聞く力も書いています。
この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。
文:小森広嗣(小児外科専門医)
