同じ病気でも、治り方が違うのはなぜか――4つの営みで診る

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「また熱が出た」「この風邪は、いつになったら治るのだろう」

小児科の外来で、何度となく耳にする言葉です。同じ診断名、同じ治療でも、すっと良くなるご家族と、長く苦しむご家族がいます。その差は、病気そのものだけでは説明がつきません。

地域で子どもと家族を診ていると、困りごとの根っこに、共通する形があることに気づきます。目の前の症状に追われるうちに、暮らし全体という大きな視点が見えなくなってしまうことです。

4つの営みという見方

そこで私が大切にしているのが、「全人格的アプローチ」という考え方です。治療法の名前ではありません。人が本来もっている、暮らしを支える4つの営みに目を向ける見方です。

  • 健やかに「生きる」:すべての土台になる、心と体の生命力
  • 本質を「学ぶ」:物事の「なぜ」を知り、不安を見通しに変える力
  • 愛し、育む:家族や仲間との間に、安心と信頼を育てる営み
  • 夢を描く:これからの姿を思い描き、そこへ向かって育っていく意志

診断と治療は、1つめの「生きる」を支えるものです。けれども、ほかの3つが揺らいだままだと、同じ治療でも回復の道のりは長くなります。

熱をくり返す時期を、4つの営みで見る

たとえば、保育園に入ったばかりの時期。月に何度も熱を出すお子さんと、疲れた表情のお母さんが来られる場面は、外来ではよくあることです。

1つめの「生きる」。診断は急性上気道炎で、医学的には重いものではありません。けれども、健やかな毎日が送れていないことは確かです。

2つめの「学ぶ」。ここで、状況の背景をお伝えします。集団生活で、新しいウイルスにたくさん出会っている時期であること。熱は、体が免疫を育てている途中のしるしであること。「この子が弱いから」ではないと分かるだけで、表情が変わる方は少なくありません。

3つめの「愛し、育む」。実は、ここがいちばん揺らいでいることが多いのです。夜の看病で眠れない。仕事を休むたびに焦る。その疲れが、親子の関係に影を落としていきます。

4つめの「夢を描く」。ご家族が本当に願っているのは、熱がゼロになることだけではありません。子どもが友だちと笑って保育園に通い、親も余裕をもって向き合える毎日です。

この願いを共有できると、処方箋の形が変わります。症状をゼロにすることより、「いまは免疫を育てる時期で、数か月かけて体は強くなっていく」という見通しを共有し、ご家族が育むことに集中できるよう、環境を整えることが医師の役割になるのです。

慢性の病気にも、手術の前後にも通じる

この見方は、風邪に限りません。喘息やアトピーのような長く付き合う病気でも、外科の病気や手術の前後でも、同じ4つの営みが顔を出します。診断名は違っても、「なぜ」が腑に落ち、目指す姿が共有できたとき、ご家族は自分の力で前へ進みはじめます。

4つの営みを、チームと仕組みで支える

とはいえ、限られた診察の時間で、4つすべてを毎回ていねいに扱うのは簡単ではありません。

そこで分けて考えます。2つめの「学ぶ」は、診察室の外でも届けられる部分が多いのです。病気の仕組み、家での過ごし方、熱が出たときの見通し。こうした説明を、受診の前後に資料や動画で受け取っていただけるようにしておくと、診察室では残りの3つ、とくに「愛し、育む」と「夢を描く」に時間を使えます。

問診の段階で、困っていることに加えて「どうなったら安心か」を聞いておく。看護師や受付が、ご家族の疲れに気づいたら医師に一言つなぐ。4つの営みは、医師ひとりの技術ではなく、チームの見方として共有できるものです。

仕組みは、説明を減らすためのものではありません。その方にしかない迷いに向き合う時間を、増やすためのものです。

伴走し、伴奏する

医師の仕事は、診断をつけて薬を出すことで終わりません。「なぜ」を解き明かし、腑に落ちていただく。ご家族が本当に望む姿を共通のゴールとして置く。あとは、そこへ向かう道のりに伴走し、ときに励まし、ときに軌道を直しながら、暮らし全体の調和を伴奏していく。それが、私が目指している医療の形です。

関連して、受診の前に届ける説明は、順番で決まるも書いています。

この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。

文:小森広嗣(小児外科専門医)

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この記事を書いた人

小森広嗣

小森広嗣

小児外科専門医・医学博士。子どものお腹と栄養を、構造と機能の両方から診ている臨床医です。説明を診察室の外にも出し、少人数のチームでも毎日回る仕組みづくりに取り組んでいます。