タスク管理だけでは、院長は燃え尽きる ── ハートとタスクの両輪

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「何のために、こんなに頑張っているのだろう」

一日の診療を終え、経営の書類と会議の予定を片づけたあと、ふとそう思う夜があります。やるべきことは確かに進んでいる。それなのに、手応えが残らない。院長やリーダーとして働く方なら、覚えのある感覚だと思います。

診療は、院長の仕事の一部にすぎない

医師から経営者になったとき、最初に戸惑ったのは、仕事の量と種類でした。診療は、院長の仕事の氷山の一角にすぎません。その下に、経営、運営、採用、定期のミーティング、臨時のプロジェクトが重なっています。数えてみると、抱えているプロジェクトと定例は50を超え、多い時には100に近づいていました。

誰かが悪いわけではありません。医療機関を預かるというのは、もともとそういう仕事です。役割が増えるほど、押し寄せる用事も増えていきます。

この量を前にすると、多くの人は、処理を速くする方法を探します。私もそうでした。

二つのコンパスを、別々の場所で磨いていた

私は以前から、デジタルの道具で仕組みをつくるのが好きでした。経営者になって業務が一気に増えたとき、その下地が役に立ちました。予定、タスク、プロジェクトを道具の上で管理する方法を、試行錯誤しながら学び、基礎をつくってきました。私はこれを「タスクコンパス」と呼んでいます。

一方で、私は長く『7つの習慣』を学び、実践会で仲間とワークを重ねてきました。自分は何のために働くのか。どんな人間でありたいのか。何を大切にしたいのか。人格を磨くことに近道はありません。時間をかけて土を耕す、農場の法則そのものです。私はこれを「ハートコンパス」と呼んでいます。

ところが、実践会で深く腑に落ちたことも、月曜の朝に用事の波が押し寄せると、どこかへ流されてしまう。気づけば私は、二つのコンパスを別々の場所で磨いていました。

片方の翼だけでは、飛べない

タスクコンパスだけを磨くと、処理は速くなります。けれども、一つひとつの行動が自分のミッションとどうつながっているのかが見えなくなり、冒頭の「何のために」という空しさがやってきます。燃え尽きは、量の多さだけでなく、この見えなさからも来るのだと私は考えています。

ハートコンパスだけを磨くと、志は高く保てます。けれども、日々の用事に押し流され、本当にやりたいことに向かう時間を、いつまでもつくれません。理念が、絵に描いた餅のまま残ります。

鳥が片方の翼では飛べないように、院長の仕事も、二つがそろってはじめて前に進みます。

二つを、一週間の中でつなぐ

私がたどり着いたのは、二つを意図してつなぐ働き方です。ハートコンパスで目的地を決め、タスクコンパスでそこへの道のりを進める。私はこれを「ハイブリッド仕事術」と呼んでいます。

手がかりにしているのは、『7つの習慣』の一週間コンパスの考え方です。私の毎日は、医師、経営者、父であり夫であること、実践会の仲間、書く人、学び続ける一人、といういくつもの役割でできています。その役割を、一週間の中で次のようにつないでいます。

  1. 週の初めに、役割ごとに、今週いちばん大切にしたいことを一つ決める。壮大な目標でなくてかまいません
  2. そのために要る行動を、信頼できる道具にすべて書き出す。頭の中から外へ出すと、考えるための余白が生まれます
  3. 週の終わりに、二つを見比べる。今週の行動は、自分のコンパスが指す方向に向かっていたか

この小さな振り返りが、航路を少しずつ直してくれます。ずれていた週があっても、気づいて戻ればよいのです。

道具が覚えてくれるから、人は目的に戻れる

ここ数年、医療の現場でも、予定や情報を支えてくれる道具がずいぶん増えました。便利になるほど、原則と、人間にしかできない仕事が大切になる。私はそう感じています。

道具は、用事を覚えてくれます。けれども、何のためにそれをするのかは決めてくれません。目的を確かめること。目の前の患者さんやご家族、スタッフに向き合うこと。これは最後まで人の仕事です。段取りを仕組みに預けるから、人はその仕事に時間と心を戻せるのです。

もっとも、仕組みを入れた翌日から楽になるわけではありません。私自身、何度もずれ、そのたびに組み直してきました。両輪がかみ合うまでには、根気が要ります。

チームで働く場合も、同じだと考えています。何のためにという目的と、いつまでに何をという段取りがそろったとき、人は迷わずに動けます。院長がまず自分の両輪を整えることが、その出発点になります。

一日の優先を三つに絞るやり方は、院長の今日は、三つに絞るに書きました。

この考え方を自院でも取り入れてみたい医療機関の方は、「医療機関の方へ」のページからご連絡ください。

文:小森広嗣(小児外科専門医)

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この記事を書いた人

小森広嗣

小森広嗣

小児外科専門医・医学博士。子どものお腹と栄養を、構造と機能の両方から診ている臨床医です。説明を診察室の外にも出し、少人数のチームでも毎日回る仕組みづくりに取り組んでいます。